金井球のエッセイ「スーパー・スキップ・午前中」

大連載 金井球のエッセイ「スーパー・スキップ・午前中」
#01 誕生日の神様へ

9月のはじめ、マネージャーの奥原さんに「文章を書くことを強いてください」とLINEしたら、MIXUSのwebサイトでエッセイを連載できることになった。わたしはわたしの文章が結構本当にすきなのだけど、文章を書くのは結構めんどくさい。それでいて、わたしは本当に本当に自分に甘いのです。だから、強制されるべきだとおもった。そのために事務所に入ったんだし。「金井ちゃん、本当にやれんの？！」とちょっぴり疑いの目を向けられながら(わたしはnoteをもう2ヶ月も更新していない)、連載の準備を始めることになった。連載タイトルは、「スーパー・スキップ・午前中」です。スーパー・スキップ(すごいスキップ、気持ちがいい)と、午前中(早い時間、気持ちがいい)。気持ちのいい言葉をくっつけました。はい。なにかに名前をつけるとき、いつも恥ずかしい。真面目に考えました。うん。
月に１回、テーマをもらって、そのことについて書いてみるという連載です。

初回のテーマは「誕生日」。「誕生日」に関連することを色々と考えてみたけれど、なんでか全然ときめかなくて、あー、わたしって誕生日が大好きってわけじゃないのかも、と驚いた。自分のこと、どうせお誕生日大好き野郎だろ？とおもっていた。きっとみんなもそうおもっていたことでしょう。そういえば、小さい頃から、誕生日に何がしたいとか、何が欲しいとかをつたえるのがすごく苦手だった。祝日だから学校で祝われるとかもなかったし。というか今ふつうに毎日が結構誕生日くらいたのしくて、誕生日に対して、一個も感情がないのかも！好きだったことある男の子から久々に連絡がきたりするのだけちょっぴりいいなとおもってたり、するくらいです。

色々考えているうちに、そういえば、去年の誕生日が散々だったことをおもいだした。なんかすごく雨が降っていて、わたしはキッチンでひとり、悪ぶってたばこを吸ってて、そしたら急になんかすごい気持ち悪くなって、そのままうずくまって泣いちゃって、そんなんしてる間に22歳になってたの。かなしかった。けど、すごい雨はわたしが22歳になってしばらくしたころ止んでくれて、そうじゃなかったらわたしはきっと誕生日を大嫌いになっていたでしょう。誕生日の神様は確実にいて、性格が悪い。

それが1年前で、これを書いているきょうは9月21日で、わたしはあさって23歳になる。

23歳になったら髪の毛を染めようと決めていた。なんでとかはなく、絶対そうしようって決めていた。22歳さいごの日、髪の毛をうす緑にして、23歳を迎え入れる。想像する。

まず、うす緑のわたしは、suicaに5000円をチャージすることためらいがない。いい匂いがする。いつだって余裕を持って家を出られるので、やたら高くつく駅徒歩1分の悪徳駐輪場じゃなくて、駅から少しはなれた、100円払えば1日中駐車できる区の駐輪場に颯爽と自転車を停める。2本も早い電車に乗って、早く着きすぎたから、とブラックコーヒーを飲みながら恋人を待つのだ。恋人はどうせ遅刻してくるのだが、動じることはない。かっこいいわたしはどんな町にも1人でたのしく歩ける道があると知っている。左腕につけた銀色の腕時計はお気に入りで、だから、時間を気にしているわけではない。23歳のわたしにはサングラスと小さなバッグがよく似合う。シンプルだけど少し変わった形のTシャツを、シンプルだけど少し変わった形のジーンズにインしている。爪が伸びてないし、めがねをかけたまま銭湯に入って視界が曇り始めてようやく気づくなんてことももう起こらないし、料理を自分の胃袋にピッタリの量だけ頼むことができる。なんかを考えてるみたいな顔をしてるときは、考えなきゃいけないことについて本当に真剣に考えている。03から始まる番号の急な電話もこわくない。というか、役所や銀行から電話がかかってくることもきっとない。大人のわたしに払えない公共料金なし。夢がひろがる、犬とかも飼っちゃえるんじゃないか！想像するだけする！

や、わたしだって髪の毛をうす緑にしただけで何かが変わるとか思ってるわけじゃないですけどーー。
誕生日の神様へ、これは儀式かもしれないです。どうか、やさしいきもちで、すこし大人にならせてください。ことしこそ、会員登録の年齢選択画面の10の位を「1」に設定しては、ああ！となるのをやめられますように。

2024.9.23 am9:00
金井 球 Kanai Kyuu

produce by Mixus Agency
#01 題材「誕生（たんじょう）」