金井球のエッセイ「スーパー・スキップ・午前中」

大連載 金井球のエッセイ「スーパー・スキップ・午前中」
#02 クタクタ革命

衣替えの季節。今年もかなりいきなりやってきた秋に対応すべく、押し入れから引っ張り出された大量の長袖たちによって、鼻水まみれの日々。わたしはいま、アレルギーの薬を服用しながら秋服を着ています。おしゃれは我慢と伺っておりますのでなんら問題ございませんが、空気清浄機を購入しました。
涼しくなってからのわたしはすごくて、いつも虎視眈々と、胃袋に隙を探しています。わずかでも空腹を認識するや否や、考えるより先に冷凍庫の米玉に勝手に手がのびるのだ…。（わたしのからだ、素直でかわいい！！）とうれしい反面、頬に脂肪がつきやすい己(わたし)の体質(からだ)をおもうたび（ひえー！）と叫ぶ毎日！
わたしという人間は、ほんとうに自分(わたし)の裸(からだ)がすきです。服を着たら隠れてしまうお腹のくびれとか、肩のたよりなさ、おしりの妙なへっこみ、太もものセルライトまで、どこをどうとっても愛おしい！服を着ないで毎日裸でいれられたら…でも、この裸は、自分だけのものだからよりすばらしい。自分だけの裸を自分だけのものしておくために、わたしは毎日服を着ているのかも。いつでもわたしを1人きりにしてくれる服がすきです。

今回のテーマは「服／衣」。つい最近ひっくりかえったわたしの中の常識について。
わたしはよく落ち込みます。お化粧とかもできないくらいクタクタになることもあったりして。落ち込みながらも生活は続くので、しゃがんでいたい体を引きずりながら区役所とかにも行かなくちゃいけないわけです。その日、いつものクタクタなわたしなら、当たり障りのないトートバッグに手に伸ばすのに、なんとなく、恋人から誕生日にもらった星形の斜めがけかばん(とっておき！)を手に取りました。区役所までの道、自転車を漕ぐ足がなんだか軽くて、変な気持ちでした。わたしって、今、かわいくないのにかわいいものを身につけて外に居ちゃってるんだもの！すっぴんの、クタクタの自分が！とっておきのかばんが、意外にクタクタの自分にもフィットする！かわいくない自分も、かわいい格好をしたってよかったのか！
わたしにとってそれは結構革命で、だって、クタクタの時って街に溶け込まないと歩けないと思っていたから。ふと下を向いたとき、視界の端に、緑の星形がやさしく鎮座していて、なんだかすごく元気が出たのです。なんで、だめって思ってたんだろう。
勝手に囚われていた常識から、解放されるってすごく気持ちいいし、落ち込んでクタクタなときこそかわいい服を着るべきというはなしです。これをうまいこと言葉にできなくて、この原稿は締め切りを過ぎています。
締め切りを過ぎながら、美容室にいます。カラーモデルとして来ているのか、あるいは、ふつうにお客さんとしてお金を払って来ているのか、あんまり確認せずにここに座っています。席に座るまで、正直、今日はお金を払わなくていいもんだとおもっていたんですけど、会話をしているうちに、（あれ、これ、ふつうにわたしって客ってことなのか？たしかに、向こうから、金井さんの髪を任せてくれませんか？と言われたけども、無料でやりますとかは言われてないよな…）と、だんだんお金を払うっぽく思えてきて、お金を払うとしたら、いくらなんだ？と怖くなってきました。インフルエンサーあるあるみたいなことなんでしょうか。美容師さんとアレルギーの話になったけど、ほこりがすごい家に住んでいることは恥ずかしくて言えませんでした。

2024.10.23 am9:00
金井 球 Kanai Kyuu

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#02 題材「衣（ころも）」

#01 誕生日の神様へ