大連載 金井球のエッセイ「スーパー・スキップ・午前中」
#04 わたし2(に)つ
金井球と名乗り始めて、5年目の冬です。金井球、というのは自分でつけたハンドルネームですが、名前の由来みたいなのは正直もう覚えていません。インタビューなどでたまに質問されるときは、かなりてきとうに話しています。なんとなくつけたにしてはいい名前すぎると思います。気に入っています。
金井球という存在について、最近はよく考えていました。インターネットを始めて、いろんな人に金井球と呼ばれるたび、単なるハンネだった金井球という言葉に、人格が宿り、活動を続けるほど成長し、人生においての存在感はいまや本名の自分を凌いでいるような気さえします。本名のわたしのことを知っている人が誰もいないことがわたしは結構さみしいです。
今回のテーマは、「源」。こんなことをうだうだ言っていたら、マネージャーがこんなテーマをくれました。わたしの源、本名の自分について、整理するきっかけになるのではないか、と。
小中学生のときの写真には、いつもお化けのような立ち姿で写っています。
わたしは肘が人と比べて異様に尖っていて、皮が余りまくるのがコンプレックスで、肘をなるべく伸ばさないように立っていました。伸ばした肘は、木の一番キモいところに似ていました。肘を曲げているとそこに汗が溜まって、肘の内側のアトピーが悪化しました。皮膚が硬くなって、象の一番キモいところに似ていました。夏の体育の行進は地獄で、これを誰かに気付かれたら人生が終わる、と本気で信じていました。当時から人目につくのが好きで、いつか有名になることを妄想しては、自分の体のキモいところを思って落ち込んでいました。わたしは本当にふつうの子どもでした。夏休みの宿題を全部終わらせたことはありません。手先が器用で、よく落書きをするけど、絵を完成させたことはありません。先生からはいつも怒られて、ちょっぴり学校に行かないでみた時期もあります。仕事が一年続いたことがありません。バイトを飛んでみたら、警察を呼ばれてしまったことがあります。勤務態度が良くて心配させてしまったそうです。本当にふつうの、めんどくさがりなだめ人間です。変な家族のことも笑って話せるようになりました。悪いやつでもなく、いいやつでもないけれど、やさしいところと顔が好きです。
金井球はそれが許されるフィールドで花開きました。ミスiDのzoom面接では、話す内容を用意するのがめんどくさくて、頭が真っ白になったということでやってみたら通って、Twitterはそれをおもしろいと言ってくれました。これが才能?なのかなんなのか、わたしはかなりセンスがいいんだと思います。ふつうのだめ人間なのがバレないように、だめなところもキャラクターとして受け入れてもらえるように立ち回るのがうまいと思います。自分のほんとうにいやなところを器用に隠しただけの金井球は、あまりに努力をしないまま、ミスiDでグランプリをとりました。最初の方は、金井球としてお仕事をいただくたびこわかったです。器用なだけでここにいれてしまっているから。なんでかいろんなことがうまくいきすぎて、それもそれでこわかったです。
活動を続けていくと、器用なだけではむずかしいことがちゃんとあって、金井球として、ちゃんと踏ん張る!ということがちょっとずつできるようになりました。成長しています。自信があります。去年からは自分でラジオも始めて今年は事務所にも入って、がんばった!とビールが美味しくなるような仕事もできるようになりました。
本名のわたしは、いまかなり肩身が狭いのです。金井球が成長を続ける5年間、本名のわたしはどんどん何も頑張らなくなって、YouTubeをみて笑って、寝て、もう半年くらい働いていないのになぜか楽しく生きています。インターネットは、そんなわたしでいいような気にさせてくれるからきらいです。やさしいところと、最近はすっぴんも好きになってきました。友だちはほとんど金井球として出会ったひとたちなのに、謎の無職と遊んでくれていてありがたいです。金井球に対して、おこぼれを受けているような感覚になりながら、最初に見せ方とかを考えたのはわたしだろ!おまえだけ気持ちよくなってズルだろ!と思うこともあります。
金井球としての居場所が増えることがいつも少しこわいです。それは金井球としての挫折がこわいとか、期待がこわいとか、はたまためんどくさいとか、そういう気持ちじゃなくて、本名のわたしが置いていかれるのを嫌がっているのかもしれないです。
もっと金井球として努力をたくさんしたら、わたしは金井球を認めざるを得なくなるのではないかと思います。認めるしかなくなったとき、すっきりするのか、もやもやするのかわからないけど、言い訳できないくらいがんばってみたら、わかるのかな…。
ここまで書いてみたものの、この問いにはきっとまだ答えはないです。知っています。わたしはずっと途中のところにいます。もっと金井球をがんばって、いつか金井球がみんなに知れ渡るまでは悩んでも無駄なことだと気づきながら、きっと悩み続けるのだと思います。自問自答癖は金井球らしさでもあり、本名のわたしらしさでもあるような気がします。
来年のいまごろにはもう少し答えに近づけていたらいいな…自問自答しまくりのキモいおばあちゃんになることを少しでも受け入れられていたら、それでもいいかもしれないです。
2024.12.23 am9:00
金井 球 Kanai Kyuu
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#04 題材「源」